一般成分とは水分、成分項目群「たんぱく質」に属する成分、成分項目群「脂質」に属する成分(ただし、コレステロールを除く)、成分項目群「炭水化物」に属する成分、有機酸及び灰分である。一般成分の測定法の概要を表6に示した。
水分は、食品の性状を表す最も基本的な成分の一つであり、食品の構造の維持に寄与している。人体は、その約60 %を水で構成され、1日に約2リットルの水を摂取し、そして排泄している。この収支バランスを保つことにより、体の細胞や組織は正常な機能を営んでいる。通常、ヒトは水分の約2分の1を食品から摂取している。
たんぱく質はアミノ酸の重合体であり、人体の水分を除いた質量の2分の1以上を占める。たんぱく質は、体組織、酵素、ホルモン等の材料、栄養素運搬物質、エネルギー源等として重要である。
本成分表には、アミノ酸組成によるたんぱく質(Protein, calculated as the sum of aminoacid residues)とともに、基準窒素量に窒素-たんぱく質換算係数を乗じて計算したたんぱく質(Protein, calculated from reference nitrogen)を収載した。なお、基準窒素とは、たんぱく質に由来する窒素量に近づけるために、全窒素量から、野菜類は硝酸態窒素量を、茶類は硝酸態窒素量及びカフェイン由来の窒素量を、コーヒーはカフェイン由来の窒素量を、ココア及びチョコレート類はカフェイン及びテオブロミン由来の窒素量を、それぞれ差し引いて求めたものである。したがって、硝酸態窒素、カフェイン及びテオブロミンを含まない食品では、全窒素量と基準窒素量とは同じ値になる。
なお、アミノ酸組成によるたんぱく質とたんぱく質の収載値がある食品のエネルギー計算には、アミノ酸組成によるたんぱく質の収載値を用いた。
脂質は、食品中の有機溶媒に溶ける有機化合物の総称であり、中性脂肪のほかに、リン脂質、ステロイド、ワックスエステル、脂溶性ビタミン等も含んでいる。脂質は生体内ではエネルギー源、細胞構成成分等として重要な物質である。成分値は脂質の総質量で示してある。多くの食品では、脂質の大部分を中性脂肪が占める。
中性脂肪のうち、自然界に最も多く存在するのは、トリアシルグリセロールである。本表には、各脂肪酸をトリアシルグリセロールに換算して合計した脂肪酸のトリアシルグリセロール当量(Fatty acids, expressed in triacylglycerol equivalents)とともに、コレステロール及び有機溶媒可溶物を分析で求めた脂質(Lipid)を収載した。
なお、従来、本表に収載していた脂肪酸総量、飽和脂肪酸、一価及び多価不飽和脂肪酸については、脂肪酸成分表2020年版に収載した。
また、脂肪酸のトリアシルグリセロール当量で表した脂質と脂質の収載値がある食品のエネルギー計算には、脂肪酸のトリアシルグリセロール当量で表した脂質の収載値を用いた。
炭水化物は、生体内で主にエネルギー源として利用される重要な成分である。本成分表では、エネルギーとしての利用性に応じて炭水化物を細分化し、それぞれの成分にそれぞれのエネルギー換算係数を乗じてエネルギー計算に利用することとした。このため、従来の成分項目である「炭水化物」(Carbohydrate, calculated by difference)に加え、次の各成分を収載項目とした:
a) 利用可能炭水化物(単糖当量)(Carbohydrate, available; expressed in monosaccharide equivalents)
エネルギー計算に用いるため、でん粉、ぶどう糖、果糖、ガラクトース、しょ糖、麦芽糖、乳糖、トレハロース、イソマルトース、80 %エタノールに可溶性のマルトデキストリン及びマルトトリオース等のオリゴ糖類等を直接分析又は推計した利用可能炭水化物(単糖当量)を収載した。この成分値は、各成分を単純に合計した質量ではなく、でん粉及び80 %エタノールに可溶性のマルトデキストリンには1.10の係数を、マルトトリオース等のオリゴ糖類には1.07の係数を、そして二糖類には1.05の係数を乗じて、単糖の質量に換算してから合計した値である。利用可能炭水化物由来のエネルギーは、原則として、この成分値(g)にエネルギー換算係数16 kJ/g(3.75 kcal/g)を乗じて算出する。
本成分項目の収載値をエネルギーの計算に用いた食品では、その収載値の右に「*」を記している。しかし、水分を除く一般成分等の合計値が、乾物量に対して一定の範囲にない食品の場合には、c)で述べる差引き法による利用可能炭水化物を用いてエネルギーを計算している(資料「エネルギーの計算方法」参照)。
なお、難消化性でん粉はAOAC 2011.25法による食物繊維であるので、その収載値がある場合には、その量(g)をでん粉(g)から差し引いた値(g)をエネルギー計算に用いている。
b) 利用可能炭水化物(質量計)(Carbohydrate, available)
利用可能炭水化物(単糖当量)と同様に、でん粉、ぶどう糖、果糖、ガラクトース、しょ糖、麦芽糖、乳糖、トレハロース、イソマルトース、80 %エタノールに可溶性のマルトデキストリン及びマルトトリオース等のオリゴ糖類等を直接分析又は推計した値で、これらの質量の合計である。この値はでん粉、単糖類、二糖類、80 %エタノールに可溶性のマルトデキストリン及びマルトトリオース等のオリゴ糖類の実際の摂取量となる。また、本成分表においては、この成分値を含む組成に基づく一般成分(アミノ酸組成によるたんぱく質の収載値がない場合にはたんぱく質を用いる。脂肪酸のトリアシルグリセロール当量で表した脂質の収載値がない場合には脂質を用いる。)等の合計量から水分量を差引いた値と100 gから水分量を差引いた乾物量との比が一定の範囲に入るかどうかで成分値の確からしさを評価し、エネルギーの計算に用いる計算式の選択に利用している(資料「エネルギーの計算方法」参照)。なお、利用可能炭水化物(質量計)は、利用可能炭水化物の摂取量の算出に用いる。
c) 差引き法による利用可能炭水化物(Carbohydrate, available, calculated by difference)
100 gから、水分、アミノ酸組成によるたんぱく質(この収載値がない場合には、たんぱく質)、脂肪酸のトリアシルグリセロール当量として表した脂質(この収載値がない場合には、脂質)、食物繊維総量、有機酸、灰分、アルコール、硝酸イオン、ポリフェノール(タンニンを含む)、カフェイン、テオブロミン、加熱により発生する二酸化炭素等の合計(g)を差し引いて求める。本成分項目は、利用可能炭水化物(単糖当量、質量計)の収載値がない食品及び水分を除く一般成分等の合計値が乾物量に対して一定の範囲にない食品において、利用可能炭水化物に由来するエネルギーを計算するために用いる(資料「エネルギーの計算方法」参照)。その場合のエネルギー換算係数は17 kJ/g(4 kcal/g)である。本成分項目の収載値をエネルギーの計算に用いた食品では、その収載値の右に「*」を記している。
このように、本成分表では、エネルギーの計算に用いる成分項目群「利用可能炭水化物」の成分項目が一定していない。すなわち、エネルギーの計算には利用可能炭水化物(単糖当量)あるいは差引き法による利用可能炭水化物のいずれかを用いており、本表では、収載値の右に「*」を付けて明示してあるので留意する必要がある。
d) 食物繊維総量(Dietary fiber, total)
食物繊維総量は、プロスキー変法による高分子量の「水溶性食物繊維(Soluble dietary fiber)」と「不溶性食物繊維(Insoluble dietary fiber)」を合計した「食物繊維総量(Total dietary fiber)」、プロスキー法による食物繊維総量、あるいは、AOAC. 2011.25法による「低分子量水溶性食物繊維(Water:alcohol soluble dietary fiber)」、「高分子量水溶性食物繊維(Water:alcohol insoluble dietary fiber)」及び「不溶性食物繊維」を合計した食物繊維総量である。本表では、エネルギー計算に関する成分として、食物繊維総量のみを成分項目群「炭水化物」に併記した。食物繊維総量由来のエネルギーは、この成分値(g)にエネルギー換算係数8 kJ/g(2 kcal/g)を乗じて算出する。
なお、食品成分表2015年版追補2018年以降、低分子量水溶性食物繊維も測定できるAOAC. 2011.25法による成分値を収載しているが、従来の「プロスキー変法」や「プロスキー法」による成分値及びAOAC. 2011.25法による成分値、更に、水溶性食物繊維、不溶性食物繊維等の食物繊維総量の内訳については、炭水化物成分表2020年版別表1に収載することとした。炭水化物成分表2020年版の別表 1にAOAC. 2011.25法による収載値とプロスキー変法(あるいはプロスキー法)による収載値がある食品の場合には、本表にはAOAC. 2011.25法によるものを収載した。
また、一部の食品は遊離のアラビノースを含む。アラビノースは五炭糖なので、利用可能炭水化物にあげられている六炭糖とは、ヒトにおける利用性が異なると考えられる。
文献によると腸管壁から吸収されず、ヒトに静注した場合には、ほとんど利用されないとされる。小腸で消化/吸収されないと、大腸に常在する菌叢によって分解利用されることになるので、食物繊維の挙動と同じと考えられる。従って、アラビノースのエネルギー換算係数は、食物繊維と同じ、8 kJ/g (2 kcal/g)とした。なお、アラビノースは食物繊維の定義からは外れ、利用可能炭水化物とも考えられないことから、その扱いについては今後検討する必要がある。
e) 糖アルコール(Polyols)
新たに、成分項目群「炭水化物」に、エネルギー産生成分として糖アルコールを収載した。糖アルコールについては、食品成分表2015年版の炭水化物に含まれる成分であるが、利用可能炭水化物との関係ではその外数となる。FAO/INFOODSやコーデックス食品委員会では、糖アルコールはPolyol(s)と呼び、Sugar alcohol(s)とは呼ばない。しかし、食品成分委員会では、化学用語としてのポリオール(多価アルコール)が「糖アルコール」以外の化合物を含む名称であり、ポリオールを糖アルコールの意味に用いることは不適切であると考えられることを主な根拠として、「ポリオール」を用いずに、「糖アルコール」を用いることとした。この判断により、炭水化物成分表の日本語表記では「糖アルコール」を用い、英語表記では「Polyol」を用いている。
糖アルコールのうち、ソルビトール、マンニトール、マルチトール及び還元水飴については、米国Federal Register /Vol. 79, No. 41 /Monday, March 3, 2014 / Proposed Rules記載のkcal/g単位のエネルギー換算係数を採用し、それに4.184を乗ずることにより、kJ/g単位のエネルギー換算係数に換算した。その他の糖アルコールについては、FAO/INFOODSが推奨するエネルギー換算係数を採用した。糖アルコール由来のエネルギーは、それぞれ成分値(g)にそれぞれのエネルギー換算係数を乗じて算出したエネルギーの合計である。
f) 炭水化物(Carbohydrate, calculated by difference)
炭水化物は、従来同様いわゆる「差引き法による炭水化物」、すなわち、水分、たんぱく質、脂質、灰分等の合計(g)を100 g から差し引いた値で示した。ただし、魚介類、肉類及び卵類のうち原材料的食品については、一般的に、炭水化物が微量であり、差引き法で求めることが適当でないことから、原則として全糖の分析値に基づいた成分値とした。なお、炭水化物の算出にあたっては、従来と同様、硝酸イオン、アルコール、酢酸、ポリフェノール(タンニンを含む)、カフェイン及びテオブロミンを比較的多く含む食品や、加熱により二酸化炭素等が多量に発生する食品については、これらの含量も差し引いて成分値を求めている。
食品成分表2015年版では、有機酸のうち酢酸についてのみ、エネルギー産生成分と位置づけていたが、本成分表では、既知の有機酸をエネルギー産生成分とすることとした。従来は、酢酸以外の有機酸は、差引き法による炭水化物に含まれていたが、この整理に伴い、本成分表では、炭水化物とは別に、有機酸を収載することとした。なお、この有機酸には、従来の酢酸の成分値も含まれる。
有機酸のうち、酢酸、乳酸、クエン酸及びリンゴ酸については、Merrill and Watt (1955)記載のkcal/g単位のエネルギー換算係数を採用し、それに4.184を乗ずることにより、kJ/g単位のエネルギー換算係数に換算した。その他の有機酸については、FAO/INFOODSが推奨するエネルギー換算係数を採用した。有機酸由来のエネルギーは、それぞれ成分値(g)にそれぞれのエネルギー換算係数を乗じて算出したエネルギーの合計である。
灰分は、一定条件下で灰化して得られる残分であり、食品中の無機質の総量を反映していると考えられている。また、水分とともにエネルギー産生に関与しない一般成分として、各成分値の分析の確からしさを検証する際の指標のひとつとなる。
成分 | 測定法 | |
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水分 | 常圧加熱乾燥法、減圧加熱乾燥法、カールフィッシャー法又は蒸留法。 ただし、アルコール又は酢酸を含む食品は、乾燥減量からアルコール分又は酢酸の質量をそれぞれ差し引いて算出。 | |
たんぱく質 | アミノ酸組成によるたんぱく質 | アミノ酸成分表2020年版の各アミノ酸量に基づき、アミノ酸の脱水縮合物の量(アミノ酸残基の総量)として算出*1 sup>。 |
たんぱく質 | アミノ改良ケルダール法、サリチル酸添加改良ケルダール法又は燃焼法(改良デュマ法)によって定量した窒素量からカフェイン、テオブロミン及び/あるいは硝酸態窒素に由来する窒素量を差し引いた基準窒素量に、「窒素-たんぱく質換算係数」(表7)を乗じて算出。 食品とその食品において考慮した窒素含有成分は次のとおり:コーヒー、カフェイン;ココア及びチョコレート類、カフェイン及びテオブロミン;野菜類、硝酸態窒素;茶類、カフェイン及び硝酸態窒素。 |
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脂質 | 脂肪酸のトリアシルグリセロール当量 | 脂肪酸成分表2020年版の各脂肪酸量をトリアシルグリセロールに換算した量の総和として算出*2 sup>。 |
コレステロール | けん化後、不けん化物を抽出分離後、水素炎イオン化検出-ガスクロマトグラフ法。 | |
脂質 | 溶媒抽出-重量法:ジエチルエーテルによるソックスレー抽出法、酸分解法、液-液抽出法、クロロホルム-メタノール混液抽出法、レーゼ・ゴットリーブ法、酸・アンモニア分解法、ヘキサン-イソプロパノール法又はフォルチ法。 | |
炭水化物 | 利用可能炭水化物(単糖当量) | 炭水化物成分表2020年版の各利用可能炭水化物量(でん粉、単糖類、二糖類、80 %エタノールに可溶性のマルトデキストリン及びマルトトリオース等のオリゴ糖類)を単糖に換算した量の総和として算出*3。 ただし、魚介類、肉類及び卵類の原材料的食品のうち、炭水化物としてアンスロン-硫酸法による全糖の値が収載されているものは、その値を推定値とする。 |
利用可能炭水化物(質量計) | 炭水化物成分表2020年版の各利用可能炭水化物量(でん粉、単糖類、二糖類、80 %エタノールに可溶性のマルトデキストリン及びマルトトリオース等のオリゴ糖類)の総和として算出。 ただし、魚介類、肉類及び卵類の原材料的食品のうち、炭水化物としてアンスロン-硫酸法による全糖の値が収載されているものは、その値に0.9を乗じた値を推定値とする。 |
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差引き法による利用可能炭水化物 | 100 gから、水分、アミノ酸組成によるたんぱく質(この収載値がない場合には、たんぱく質)、脂肪酸のトリアシルグリセロール当量として表した脂質(この収載値がない場合には、脂質)、食物繊維総量、有機酸、灰分、アルコール、硝酸イオン、ポリフェノール(タンニンを含む)、カフェイン、テオブロミン、加熱により発生する二酸化炭素等の合計(g)を差し引いて算出。 | |
食物繊維総量 | 酵素-重量法(プロスキー変法又はプロスキー法)、又は、酵素-重量法・液体クロマトグラフ法(AOAC.2011.25法)。 | |
糖アルコール | 高速液体クロマトグラフ法。 | |
炭水化物 | 差引き法。100 gから、水分、たんぱく質、脂質及び灰分の合計(g)を差し引く。硝酸イオン、アルコール、酢酸、ポリフェノール(タンニンを含む)、カフェイン又はテオブロミンを多く含む食品や、加熱により二酸化炭素等が多量に発生する食品ではこれらも差し引いて算出。 ただし、魚介類、肉類及び卵類のうち原材料的食品はアンスロン-硫酸法による全糖。 |
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有機酸 | 5 %過塩素酸水で抽出、高速液体クロマトグラフ法、酵素法。 | |
灰分 | 直接灰化法(550 °C)。 |
食品群 | 食品名 | 換算係数 |
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1 穀類 | アマランサス10) | 5.30 |
えんばく オートミール6) |
5.83 | |
おおむぎ6) | 5.83 | |
こむぎ 玄穀、全粒粉6) |
5.83 | |
小麦粉6)、フランスパン、うどん・そうめん類、中華めん類、マカロニ・スパゲッティ類6)、ふ類、小麦たんぱく、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮 | 5.70 | |
小麦はいが10) | 5.80 | |
こめ6)、こめ製品(赤飯を除く) | 5.95 | |
ライ麦6) | 5.83 | |
4 豆類 | だいず6)、だいず製品(豆腐竹輪を除く) | 5.71 |
5 種実類 | アーモンド6) | 5.18 |
ブラジルナッツ6)、らっかせい | 5.46 | |
その他のナッツ類6) | 5.30 | |
あさ、えごま、かぼちゃ、けし、ごま6)、すいか、はす、ひし、ひまわり | 5.30 | |
6 野菜類 | えだまめ、だいずもやし | 5.71 |
らっかせい(未熟豆) | 5.46 | |
10 魚介類 | ふかひれ | 5.55 |
11 肉類 | ゼラチン8)、腱(うし)、豚足、軟骨(ぶた、にわとり) | 5.55 |
13 乳類 | 乳6)、チーズを含む乳製品、その他(シャーベットを除く) | 6.38 |
14 油脂類 | バター類6)、マーガリン類6) | 6.38 |
17 調味料及び香辛料類 | しょうゆ類、みそ類 | 5.71 |
上記以外の食品 | 6.25 |